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2/04/2018

ロンドンの空気環境と出生体重

企業に勤める身分では到底このような公共のための自由な発想、探索的研究は困難なので、こういう研究はぜひばんばん趣味的実施をしてもらいたいものだなあという羨望とともにご紹介。
タイトル通り、都市ロンドンの空気環境が出生体重に与えるインパクトを検証したもの(Smith et al., BMJ 2017)。

NO2 , NOx , PM2.5  PM2.5, and PM10の空気汚染量と騒音の曝露の程度と出生体重との関連性を見たもので、汚染・騒音曝露が高いほど低体重、少ない妊娠期間と関連することが見出されています。
こういう環境、公衆衛生学的な検証が出来るのも、問題提起される以前からデータを集め、解析し検証することを行えること、そのデータ解釈などについて公衆で周知され、議論され真に正しい減少を理解しようとする姿勢、科学的な啓蒙が市民にいきわたっていなければなかなか難しいものであると思う。少なくともこういった研究を受け入れるリテラシー、必要性の意義自体を理解できる文化を醸成しないといけな。

本題とは関係なくなりますが、こういう研究が後々大事な政策根拠、研究発展につながることが多々あります。いまだに日本人研究者の中ではたとえ専門的な職業に従事している方でも疫学研究・観察研究の重要性を理解できず、RCT信奉みたいなことを言っている方をお見掛けするが、欧米では研究の手法として介入するかしないかの違いであり、疾病理解や改善やリスク評価といった原則に立てばどちらも同じ程度に評価している現状をご存じなのか疑ってしまうことが多々ある。患者さんを目の前にしている現場に立つ方々にこそ研究実施者としての目線を培ってほしいと思います。

片頭痛をあなどるなかれ

片頭痛Migraineは全世界の人類の疾病負担であるようで、なんと12%もの有病率。中でも頭痛の前または間に一時的局所的な神経学的現象が起こるwith aura(適当な訳語が不明です、ありからず)のタイプの片頭痛の方は、心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、静脈血栓塞栓症および心房繊維化または心房粗動のリスクが高いこと、 片頭痛はほとんどの心臓血管疾患の重要な危険因子となることを報告している。(Adelborg et al., BMJ 2018)。













対象集団はオランダの国全体を網羅する医療データベース1995-2013年のデータから片頭痛患者51,032名をケースとして、マッチングした51万名のコントロールと比較してある。
その他疾患の出現率はあまり大きく偏っていないにもかかわらず心血管疾患に限っては明らかに高くなっているようである。

片頭痛自体が虚血性神経障害の表れた症状であることから、片頭痛が繰り返す、入院加療が必要になるくらいの頭痛が現れたら循環器障害を疑った介入、検査を必要とすることがっここから得た知識である。

PPIプロトンポンプ阻害薬の弊害:認知症への影響??

最近のJAMA姉妹誌を閲覧している中で目についてちょっと意外だったのでご紹介。(Gomm et al., JAMA Neurology 2016)
胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬の処方者では認知症の発症リスクが高まる、という結果をドイツの健康保険データの解析から明らかにしたもの。

消化器症状(下痢吐き気など)や肝機能については副作用として知られているが、このような長期作用として、またその機序からは不明な認知症はどのような説明がされているのか、追加試験や機序探索はその後どうなっているのか気になる。
Discussion文中では、PPIが直接BBBを通過して脳内酵素活性を調節すること、そのなかでβ-セクレターゼBACE1活性と組み合わさってγ-セクレターゼの逆調節によりAβレベルの蓄積を導く増大させることを示唆している。別の説明としては脳を構成するマイクログリア(脳内のマクロファージと呼ばれる)によるFibrillar Aβクリアランスは pH依存性で、PPIのターゲットになりえるVacuolar-type H+–adenosine triphosphatase (V-ATPase) proton pumpsがこのpH調節(酸化)にかかわっており、その阻害によりAβクリアランスが進まず蓄積される、というもの。どこまで証明されてきたのであろう。

アメリカンフットボール選手、プロアスリートの寿命

最近のJAMA誌にUSのNational Football Leagueの選手の寿命を比較検討した研究が掲載されていましたのでご紹介。(Venkataramani et al., 2018 JAMA、 Editorialもついていたのでこちらから


2010年前後からアスリートの怪我として、そのスポーツのプレイ中で発生する脳への影響、外傷性の脳への障害が問題視されるようになり、短期(脳震盪)および長期(認知、神経筋、または運動障害)への懸念が高まるようになってきた。そんな中、死亡率への影響を検証した研究が少なく、また以前に行われた研究では比較として一般男性を対象とした比較しか行われていなかったことから、同じNFL選手として登録されながら1987年の選手たちのストライキによって代替選手として登録された人たちを対象として比較を試みたというもの。
以前に行われていた研究で対象とされた一般集団に比べ、プロアスリートたちは、積極的な栄養学に則った食事・カロリー調節や日々のトレーニング、医療・健康へのアクセスが容易であることからきちんとした比較ではないのではないか、という疑問から始まったようだ。因みにその以前研究では特にアスリートで死亡率のリスクが高くなる、とはならなかったようである。
1982-1992年シーズンにデビューした3812名のUS National Football League (NFL)選手、うちレギュラー選手 (n = 2933)と1987年の代替選手を30年間ほど追跡した結果であるが、
レギュラー選手 144名(4.9%) と代替選手の 37名 (4.2%) が追跡期間中に亡くなり、その死亡リスク差は1.0% [95% CI, −0.7% to 2.7%]; P = .25、ハザード比は1.38 (95% CI, 0.95 to 1.99; P = .09)、差がない、となったようだ。
しかしながらルーゲーリック病として知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)による死亡がレギュラー選手で7例も認められており、神経障害・変性への影響がないとはいいがたいのではないのか、といった疑問をEditorial commentでは述べられている。

今回のアメリカンフットボールのみならず、ラグビー、アイスホッケー、サッカーなどなど接触を伴うスポーツにおけるアスリートの健康を考え、決して命と引き換えにすることなくファンを楽しませ続けていってくれることを切に願う。