少し前の記事では男性ホルモン補充療法を取り扱いましたが今回は、前立腺肥大療法とうつ症、自殺の関係を取り扱った論文のご紹介です。
前立腺肥大の弊害は他の専門サイト(例えばこちら)で詳しいので割愛しますが、
組織学的な前立腺肥大は、30歳代から始まり、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%の人で認められるとされています。夜間頻尿や残尿感が日々の生活で発生し、著しくQOLを下げることが知られています。私自身や実家の父などにもふりかかってくるであろう、身近な症状です。
この障害には男性ホルモンの影響が考えられており、はげ治療にも用いられるようになってきた、5α還元酵素阻害剤などが治療では使われています。テストステロンから変換されるジヒドロテストステロンが前立腺細胞の増殖に働いていることが知られており、5α還元酵素阻害薬は、前立腺細胞の中でテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素の作用を抑えることにより、前立腺細胞の増殖を抑制し、その結果肥大した前立腺が縮小します。この薬を長期間服用することにより肥大した前立腺が縮小して、排尿困難の症状を改善します。
今回の研究ではこの前立腺肥大症の治療に用いられる5α還元酵素阻害剤使用者における自殺やうつ症、自傷行為について薬剤疫学検討を行ったものす。
対象はカナダのオンタリオ州の66歳以上男性、全人口ベース(約1300万人)に5α還元酵素阻害剤使用開始した方と、Propensity scoreでマッチさせたコントロール対照研究です。2003-2013年で9万3千人が収集されました。
結果は、治療者、薬剤提供者、患者さんにとって幸いなことに自殺に関してはこの薬剤による影響は認められなかったとの結果でした(ハザード比0.88, CI 0.53-1.45)。
しかしながら、自傷行為は処方から18か月内でハザード比1.84, CI 0.53-1.45,うつ症はおなじく1.94, CI 1.73-2.16となり、うつ症は処方から18か月以降も3年以上であっても5α還元酵素阻害剤非使用者に比べて発症リスクが高くなることが示されました。
もちろんこの薬剤使用により神経内分泌的な変化や神経機能、細胞機能変化が起こっていることが様々な基礎実験などから推定されていますが、本当の機序説明はクリアになっていないようです。今後の機序解明によって対策できることが期待されます。
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