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7/23/2017

妊娠中の抗うつ薬の処方注意:生まれてくる子の自閉症とADHD

BMJ誌にEditorial comment付きで表題に関する2報の論文が出ていたので紹介します。
自閉症のリスク by Rai et al., ADHDリスク by Man et al., )

以前から、動物実験、ヒトでの観察研究から妊娠中の抗うつ薬処方が、生まれてくる子の精神疾患への影響が議論されていたようですが、母親または父親の遺伝的背景によって交絡を受けていることが指摘されていました。最初のRaiさんの報告ではできるだけそういった未知の交絡を排除することを目指した解析、具体的にはLogistic regression modelで多変量調節したリスクを示す、Propensity scoreによるマッチング、自閉症を示さない兄弟姉妹、父親のNegative controlを用いた解析を行っています。これらの観察研究における弱点克服の様々な解析によって、交絡では説明できないリスクがconsistentに示されているので、妊娠中の抗うつ薬服薬は、子の自閉症発症に何らかのリスクがありますよ、といったメッセージです。
ただし、Editorial commentでも指摘されている通り、リスクがあるようだがその規模、予防できる規模は妊娠女性の2%に過ぎず、リスクベネフィットを勘案して治療されない母親の不安症、うつ症を顧みないといけないと注意しています。

ManさんたちのADHDでは、若干交絡因子の影響排除が甘いもしくは交絡の影響をうかがわせる結果となっています。実際妊娠期間前の服薬者においてもリスクが示されている、兄弟姉妹のNegative controlや抗精神病薬処方でリスクが示されない、など必ずしも妊娠期間中の抗うつ薬の曝露の影響を明らかにはし切れていないですが、他の研究が示していたnon-SSRIの方がSSRIよりもADHD発症リスクが高いことが示されており、それが選択バイアスなのかどうかわからないですが、関連性を示す示唆は与えています。

私の懸念は、妊娠中の服薬は抗うつ薬に限らず気を付けられるべきであることと、
近年の世界各国特に先進諸国でのADHDや自閉症自体の有病率の上昇は、常態化している抗うつ薬服用に限らず、様々な違法ドラッグの蔓延なども影響しているのではないか、その他の環境因子によっている可能性も含めて検討し、対策すべきかなと想像しています。

7/22/2017

痩せるだけではない、毎日じゃなくてもよい、カロリー制限の効用

最新号のJAMA誌に紹介記事が出ていたのが気になったのでご紹介(引用記事)。



肥満の人、あるいは予備軍、その自覚がある方々、若い女子たちは、どうにかカロリー制限して、炭水化物を控えて体重を減らそうと日々努力されている昨今ですが、決してスリムな容姿のためにではなく、自身の健康寿命を延ばそうと思ったら、決して肥満とは言えない方々も定期的なカロリー制限が健康にとって重要である、という趣旨で、それをヒトでのRCTや動物でのメカニズムから根拠づけられてきたことを紹介しています。
ただ、老いも若きも欲の制限は修行僧のような精神力と外界からの刺激に反応しない鍛錬が必要となります。日々のカロリー制限が肥満だけでなく、寿命や、心血管イベント、がんの発生などなど健康寿命を延ばす、より良い生活に欠かせないことはひと昔前から分かってきてはいたのですが、ここで紹介されている近年の研究ではその現実的な制約を考慮した設定がされています。週に一日や、2日間連続、あるいは月に数日間の絶食、あるいはそれに近いカロリー制限を継続することで様々な健康ベネフィットが生まれるということがわかってきました(記事内、”time-restricted feeding
実際よくコントロールされた臨床研究の中では、カロリー制限することにより、自由に食事摂取対象群と比較して慢性疾患をよく抑え、血圧やIGF1、コレステロールまたAgingマーカーいずれも良好であることが示されてきました。こちらによくまとまっていましたのでついでに引用させてもらいます。
また、動物実験でもより子細なメカニズムや細胞レベルの影響がわかってきており、インスリン産生細胞(膵臓β細胞)の分化によるせい正常機能細胞の再生やインスリン分泌機能をよくすることなどが示されてきました。

地球上の生命の中で、特に大型動物が地上を征服している過程の中で、カロリー過剰を経験した種はおそらくなく、それへの対処を、進化上のプロセスではない対応を迫られている時代・種であり、おそらく長い目で見た際にはこれへの適応、選択圧を自然?環境から受けている時代であることを再考させられました。

7/01/2017

通勤手段と健康管理;男性諸君、自転車を恐れるな

少し前に、幹線道路のそばに住むと疾患リスクが高くなることをご紹介しましたが、
そこで少し触れた、通勤手段と健康リスクについて報告がされていたようなので簡単に取り上げます。(BMJ, Celis-Morales et al., )

UK Biobankに登録された26万人超の方々を、自転車通勤、徒歩通勤、これらのミックス、あるいはほとんど自家用車もしくは自宅といったカテゴリごとに被験者を分け、5年間以上追跡して、心疾患、がんの発生、これらによる死亡と全死亡を観察したというもの。

自転車通勤者も徒歩通勤者もいずれも心疾患、腫瘍リスクを下げていることは予想された通り。巷で言われる自転車と男性の性機能低下は別のところでも議論され、否定されているようなので、研究結果を信じるならば有益性があることが示されましたのでご安心のほど。

IQ知能指数とその後の運命

前回のご紹介記事に続き、今度は76年にわたる追跡期間、と目を疑う報告が最近のBMJにあったのでご紹介します。(Calvin et al., )
On 4 June 1947, about 94% of the Scottish population born in 1936 who were registered as attending school in Scotland (75 252) completed a test of general intelligence in the SMS1947 (n=70 805).

上記は論文Methods中の記載ですが、記載の通り1947年6月4日スコットランドの1936年生まれの小学生を対象に行った知能テストとその後の”68年間”の死亡、疾病を追跡した報告です。絶句ですね、、、。
ほぼ全人口94%をカバーしたということで、2015年12月まで追跡(個人と紐づいたデータが保管されていること自体がすごい!)したというものです。

知能テストのスコアが高いほど、その後の全死亡率が低くなったという結果(ハザード比 0.80 CI:0・78-0.81)のみならず、呼吸器疾患 (0.72, 0.70 to 0.74), 冠動脈心疾患 (0.75, 0.73 to 0.77), 脳卒中 (0.76, 0.73 to 0.79)といった結果になったとのこと。しかも、知能スコアの高さに依存したきれいなハザードとなっています。わかりやすい図を下にコピー引用させてもらいます。


最終的に筆者たちの言いたいところは、固形がんでのリスクも知能スコアが高いと抑制できるのだが、むしろ喫煙や飲酒が関係する疾患、癌腫において顕著にハザードが低いことから知能の高さがその後の人生における生活習慣、社会的地位などに影響し、疾患リスク死亡リスクにつながっていることを類推させるものになっています。
社会にとっての恩恵をこの研究から甘受するためには、知能スコアに関わらず、疾患⚫死亡リスクを抑制する社会政策、違法薬物なども含む飲酒喫煙機会の制限、生活習慣改善の社会インフラ、安全な環境等を政府として提供しないといけません。選択する政策いかんで市民の生活、健康は如何様にも変容可能である歴史的事実を政治家、政策策定に関わる方々は最低限学んでほしい。