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6/30/2018

アルコールの弊害

最近のLancet誌で取り上げられた、私たちにも身近な、決して現在健康な方にも関係するお話。アルコールの摂取量と健康、死亡や心血管疾患イベントアウトカムリスクを評価しようとしたもの(Wood et al., Lancet 2018; 391: 1513–23)です。

各国のアルコール摂取のガイドラインでは様々な規定や推奨基準となっており、

米国では、例えば男性で一週間あたり196 g (およそ 11杯のグラスワインか11パイントのビール) 、女性で 98 g を推奨している。つまりこれがあるk-るによるリスク低減の上限。
カナダやスウェーデンも同程度。だがイタリア、ポルトガル、スペインではこれが50%程度高い=1.5倍のアルコール摂取を容認している。一方でUKではUSの半分程度としているそうだ。残念ながら日本の基準は不明ですが、自身の場合にはラテン民族と同程度の基準であってほしい、今日この頃です。


さて、この論文では科学的エビデンスに基づいてどの程度のアルコール摂取が実際の臨床アウトカムに影響するかを研究したもの。
データソースはUKのEmerging risk factor collaborationを運営している団体の前向きコホートデータとUKのBiobankから、現役アルコール消費者について、摂取量をきちんと把握できる方について、追跡し、週のアルコール摂取量100gを基準にそれ以上の消費量カテゴリーのハザードをCox regressionモデルで評価を行った。
結果は明々白々、週に100g以上のアルコール摂取は害悪以外にないという現実的な結果でした。嗚呼(涙)。


40歳の人を基準にぞの後の残存する人生からの失われる時間推定したのが下の図。



私の場合、赤のドットになるので、毎年2年弱ほど人生を失ってしまっています。仮に20歳から60歳まで毎年2年ずつ失うとして80歳分早く死んでしまううことになる。ひょっとしたら別の場所でも議論されていますが、本当は人間は160歳か200歳くらいまで寿命の上限があって、そこからさまざまな害悪?により数十年単位で失ってしまって今の80歳、90歳で全うしているのが真実なのかもしれません。
当然のことながら依存症や極度の飲みすぎは多くの方は容認できないと思いますが、一方で、多くの方がアルコールがコミュニケーションやPsychologicalな一縷の幸せを、幸福な時間を享受していることも忘れたくありません。

6/16/2018

ホスピスケアと最期の時の迎え方

USでは2000年時に23%だったホスピス(終末期緩和ケア)利用者が2014年には48%にまで増えている一方、US公的保険Medicareが規定するホスピス利用方針として、疾患治療は行わないよう設けています。おそらく費用対効果・レギュラトリーサイエンスの観点からかと思われます。そのためか、死の最後の3日間までホスピス利用しない方々は2000年の22%から2009年の28%と増加傾向を示しているようです。このホスピス利用期間の短縮が最期の時のQoLを低下させたり、不適当な痛みにつながっていないか、患者さんの訴えを無視するような処置になってないか倫理的な問題ともなっています。特に週に3回の血液透析を必要とするESRD末期腎臓病患者さんにとってその血液透析の治療とホスピス利用が密接に関係しているようです。


そこで今回ご紹介する論文は、保険財政の観点で制限されるポリシーが、果たして正しいのかどうかを、ホスピス利用期間と最期の期間にかかる医療資源と費用との関係性を、特に血液透析患者さんに着目して調べてみたという論文です。(Wachterman et al., JAMA Internal Medicine 2018) 興味深い紹介記事も出ていたので合わせてご紹介。

2000年から2014年の間に亡くなられた129万人の血液透析患者のうち、メディケア被保険者の77万人を対象に、ホスピス利用期間と最期の1か月間の入院、ICUあるいは集中治療の実施、病院内(加療中の)死亡そして医療費を比べたもの。

77万人のうちホスピス利用者はたった20%(他の終末期疾患と比べて低い)、しかもその40%以上が最期の時のほんの3日間以下の利用であった。透析治療を受け、終末期ケアの状態でありながら60万人、8割の方は緩和ケアなく亡くなっているという現実が示されました。

また、今回この論文の着目点として、最後の3日以内のホスピス利用は、その最後の1か月間の病院での死亡、集中治療の必要性はホスピス利用しない人に比べ低下していたが、入院・ICU利用率はホスピスを利用しない人と変わらず、その治療にかかる費用も変わらないことが示されています。一方でより長くホスピス滞在していた方々、特に2週間、あるいはそれ以上の滞在者の医療費は顕著に低く収まっているという結果が示されました。

解釈は非常に困難かもしれませんが、単純に医療費だけで考えた場合、最期を迎える人のQOLを高く維持し、医療費を低く抑える仕組みが活用されてもよいのかと考えます。
超高齢化社会を迎え、透析患者の著しい増加を見る先進諸国では喫緊の課題として医療政策でも検討されるべきではないでしょうか?

赤毛のアンの悪性黒色腫(メラノーマ)リスク

マウス実験のころになじみのあったメラノコルチン受容体の遺伝子バリアントと、悪性黒色腫のリスクを男女で比較したという報告が最近のJAMA姉妹誌に登場していたのでご紹介します。(Wendt et al., JAMA Dermatology 2018)

ヒトの髪の毛の色や肌の色はメラニン合成をつかさどる酵素かその合成を制御するメラノコルチンとその受容体の遺伝子バリアントで違っているとされており、また加齢の影響を受けることは世界中の人々の観察から周知の事実である。

今回はメラノコルチン受容体の遺伝子バリアントの違いと性別がメラノーマのリスクに影響するかをケースコントロールスタディで検証したというもの。オーストリア、ウィーン大学病院からの報告。

結果は、女性のMC1Rハイリスクバリアントが有意にメラノーマリスクを示し、部位別のしわやそばかす(シミ)、太陽日射の影響なども考慮してもその遺伝子バリアントと性別の背景の影響が認められたというものであった。その理由には性ホルモンがメラニン合成に影響をしているためであろうとのことでした。


個人的に驚いたのが、MC1Rの遺伝バリアントは80以上も知られており、そのことが肌の色や髪の毛の色のバラエティになっていることと、意外だったのは、そのバリアントだけでは説明できない髪の毛の色の遺伝形質があることでした。まだまだ知らないことが多くあり、人種の中のバリアントがわかりやすい形で表れている遺伝子バリアントと疾患の感受性を知ることができるいいモデルになるのかと想像しました。