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3/25/2017

お医者さんたちの医療資源の使い方の違いと患者さんへの影響ー医療政策者必読

タイトルに興味を持たれた方、こちらのブログをぜひご覧ください。

研究者ご本人の解説があるのでご紹介にとどめます。
昨今の最適使用推進ガイドラインみたいな制度側の取り組みにもかかわってくる、興味深いレポートですね。

高齢男性の悩みは尽きない、、、

少し前の記事では男性ホルモン補充療法を取り扱いましたが今回は、前立腺肥大療法とうつ症、自殺の関係を取り扱った論文のご紹介です。

前立腺肥大の弊害は他の専門サイト(例えばこちら)で詳しいので割愛しますが、
組織学的な前立腺肥大は、30歳代から始まり、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%の人で認められるとされています。夜間頻尿や残尿感が日々の生活で発生し、著しくQOLを下げることが知られています。私自身や実家の父などにもふりかかってくるであろう、身近な症状です。
この障害には男性ホルモンの影響が考えられており、はげ治療にも用いられるようになってきた、5α還元酵素阻害剤などが治療では使われています。テストステロンから変換されるジヒドロテストステロンが前立腺細胞の増殖に働いていることが知られており、5α還元酵素阻害薬は、前立腺細胞の中でテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する5α還元酵素の作用を抑えることにより、前立腺細胞の増殖を抑制し、その結果肥大した前立腺が縮小します。この薬を長期間服用することにより肥大した前立腺が縮小して、排尿困難の症状を改善します。

今回の研究ではこの前立腺肥大症の治療に用いられる5α還元酵素阻害剤使用者における自殺やうつ症、自傷行為について薬剤疫学検討を行ったものす。
対象はカナダのオンタリオ州の66歳以上男性、全人口ベース(約1300万人)に5α還元酵素阻害剤使用開始した方と、Propensity scoreでマッチさせたコントロール対照研究です。2003-2013年で9万3千人が収集されました。
結果は、治療者、薬剤提供者、患者さんにとって幸いなことに自殺に関してはこの薬剤による影響は認められなかったとの結果でした(ハザード比0.88, CI 0.53-1.45)。
しかしながら、自傷行為は処方から18か月内でハザード比1.84, CI 0.53-1.45,うつ症はおなじく1.94, CI 1.73-2.16となり、うつ症は処方から18か月以降も3年以上であっても5α還元酵素阻害剤非使用者に比べて発症リスクが高くなることが示されました。

もちろんこの薬剤使用により神経内分泌的な変化や神経機能、細胞機能変化が起こっていることが様々な基礎実験などから推定されていますが、本当の機序説明はクリアになっていないようです。今後の機序解明によって対策できることが期待されます。

3/12/2017

週末戦士たち、生活習慣病予備軍たちへの応援歌

”Weekend warrior”って刺激的なタイトルだったので流し読んでみましたが、JAMA Internal Medicine誌の3月号で、定期的な運動と全疾患、循環器、がんによる死亡への影響をイングランド、スコットランドの健康調査のデータ(ほとんどが白人のデータ)から解析を試みた研究が公表されています(O'Donovan et al., )。

習慣的な運動量を4つのカテゴリに分けて:①何もしない、②若干の運動(直訳では不十分な活動)、③週末戦士、と④常習的なトレーニング者に分けてそれぞれの死亡アウトカムを過去1994-2012年のデータから検証したもの。
中等度の運動を週に150分間以下もしくは強度な運動を週に75分間以下が②不十分な活動に分けられ、
上記の活動時間以上を1-2セッションが③週末戦士、3セッション以上が④常習トレーニング者に分けられています。

予想通り③④の方々は、①の集団に比べて全疾患による死亡、循環器疾患による死亡、がんによる死亡すべてで30%以上のリスク低下を示していました。④の集団はいずれの死亡もこれらの群間の中で最もリスクが低かったですが、中でも循環器疾患にいたっては5割近いリスク低下を示しました。
一方で②の”不真面目”だが、何かしら運動をしている集団でも、ほぼほぼ③の集団と同程度のリスク低減を示しており、何やら週末戦士の面子丸つぶれのような有態でした。
ただ、裏を返せば、今現在不摂生な週末を送られている予備軍の方にでも、手短なところから、例えば一週間にウォーキング30分、もっと敷居を低くして言えば、散歩30分間のような運動でもいいから取り入れるだけであなたや家族の健康が守られるかもしれない可能性を示してくれました。
我が家でも取り入れたい、明日からでも始められる生活還元型研究レポートでした。





3/11/2017

採食健美 理性と欲との攻防

本日はJAMAの3月号に掲載されていた研究(Micha et al., )を取り上げてみようと思う。ここでは、米国の健康と栄養調査過去2回分(1999-2002年、2009-2012年)を対象に10の食事因子:フルーツジュースを除く果物、野菜、ナッツ類、全粒穀物、非加工赤肉、加工肉、糖分添加飲料、多価不飽和脂肪酸、海産性オメガ3脂肪酸、食塩、の摂取量と循環器代謝疾患(心血管病、脳梗塞、および糖尿病)による死亡率を検証。

個々の食材と疾患や死亡率との関連性は多くの研究がされているが今回そういった前向き試験などのメタデータ、最適な栄養摂取をしている集団の分布を調べた観察研究データ、疾患特異的死亡率などのデータを総括的にモデルに入れ込んで検証したもの。
結果自体は予想された通りで、食塩過剰摂取、次いでナッツ類の摂取不足、加工肉の摂取過剰、オメガ3脂肪酸の不足、野菜不足、果物不足、過剰な糖分飲料、の順で循環器代謝死亡に影響があったとなっている。
ただ、この十年くらいの間で、循環器代謝死亡は四分の一くらい減少していて、その大きな寄与は多価不飽和脂肪酸やナッツ類不足または過剰な糖分付加飲料摂取が減少したことが挙げられている。また男性の方が不摂生な食事とその代謝死亡率への影響が高いこと、青年壮年期世代(25-54歳)、教育経験水準レベル(高卒またはそれ以下)や黒人で若干影響が高くなることも併せて示されている。
一つの食材、栄養因子にとらわれた研究だとその他の食材・栄養や環境因子など交絡因子の排除が問題となるが、ここでもすべてを除き切れているとは言えない。だが最大限努力はしたと思われるので一定の評価はされていいかと思われる。測定バイアスについても限界があるが、私はそれ以上に同じ食材でも中身の栄養価や添加物の違い、同じ栄養価摂取量でも個人間での代謝による体内への摂取量の違いといった、摂取物のバラエティさ、摂取者の背景因子の違いはもっと積極的に考えてもいいかと思っている。同じような生活環境下でも体内栄養利用への影響(縦、横の成長)はとても大きいことは、その先の生理学的、病理学的影響も大きくなる気がしてならない。総体としてのメリットデメリットは分かったが、日々の食材選びや安心して摂取できる食品の監視は、医薬品程とはいかなくても市民がもっと関心を払うべき大事なことなのかもしれない。

3/05/2017

幹線道路そばに住む市民はボケやすい!?

昨日あげたテストステロン療法における認知機能改善を検証した研究に関連して目についたので、手短にご紹介。
Lancet誌の2月の記事で、カナダのオンタリオ州(人口1360万人)のカナダ生まれの市民のうち、20-50歳の市民437万人の多発性硬化症、、55-85歳の市民216万人の痴呆、パーキンソン病発症リスクを居住地域:幹線道路からの距離50m未満、50-100m、101-200m、201-300m、300m以上、に分けて解析したもの。
空気環境汚染(NOxやPM2.5など)や騒音が上記の3つの主要な神経変性疾患に影響を与えている可能性を検証した初めての試み。これだけ大規模で縦断的に検証されたのは初めて。
結果は、痴呆に関しては筆者らの予想通り、幹線道路からの距離に応じて発症リスクが高いことが示されている。距離に応じてその相対リスクが増加すること、感度分析でもその関連性が示されたことから、相対リスクはわずかだが、頑健性のある結果であると主張している。
パーキンソン病、多発性硬化症は残念ながら関連性は認められなかったようだ。

US、カナダなど車生活が基本となる都市、まちでの神経変性リスク同様、
日本の首都圏では駅に近い=徒歩、運動時間が短いことと慢性疾患との関連性など、この研究から発展できるアイデアは尽きない。

3/04/2017

男性ホルモン療法の効用 男性更年期障害にはまだ立ち向かえない!?

近年欧米の高齢男性の間で男性ホルモン、テストステロン療法が流行っているようです。イントロ記事によるとUS、カナダでは最近(2011年)のテストステロンの売上げ(使用)が2000年にくらべてそれぞれ約10倍、40倍増えていることからもうかがえます(ref.Handelsman et al., )。その他の欧米各国でも着実な成長市場となっているようですね。テストステロン療法により、性腺機能低下症の治療に用いられ、筋肉量、筋力、骨密度、性欲、健康活力の改善が期待されています。勃起不全に対してはPDE5阻害薬の作用を増強するといわれています。病理的な理由による性腺機能不全の方への治療だけではなく、近年の需要増加理由、加齢によるテストステロン低下、性腺機能低下、いわゆる男性更年期障害に対して本当に効果があり、安全性に懸念がないのかが問題になってきているようです。



それに解を得ようというのが本日のお題です。病理的に性腺機能不全ではない男性でのテストステロン療法がどのような効果をもたらすかを検討した研究の紹介です。
最近のJAMA誌に2報、JAMAの姉妹紙(JAMA Internal Med)にも2報、7つのプラシーボコントロールのランダム化試験”Testosterone Trials"からのアウトプットとして報告されています。性腺機能、身体機能に対する改善効果はすでに報告されていますが(NEJM, 2016)、その他の健康アウトカムに関して続報となります。
結論だけ要約すると、65歳以上の低テストステロン血症の男性に対し、テストステロン療法(経皮ジェルを一年間継続、プラセボ群に対し)は、

  • 生殖機能に対しては効果あり、身体活動や活力はあまり有意な効果が認められなかった(NEJM, 再掲
  • 記憶障害や認知機能に対しては改善効果なし(JAMA, Resnick et al., )
  • 心血管障害(冠動脈プラーク形成)に対しては非石灰化プラークボリュームを増加させるが石灰化プラーク量は変えない(JAMA, Budoff et al., )
  • 軽度貧血(理由不明など)に対してはヘモグロビン増加(貧血改善)効果(JAMA Int Med, Roy et al., )
  • 骨密度、骨強度増加作用(JAMA Int Med, Snyder et al., )
を示しました。低テストステロンによる弊害(性腺機能、男性らしさ、心血管イベント、肥満、骨粗鬆症、うつ、認知症)が言われつつ、過剰なテストステロンでも心血管イベントを惹起している(Albert et al., )、大方否定的になってきましたが前立腺がんを引き起こす可能性、などなどホルモン療法の是非はまだ問題も残されているようです。今回示された結果は、性腺機能改善効果以外はさほど大きな有用性が示されなかった一方、心血管イベントなどの懸念は長期モニタリングにあまり適していない検討(冠動脈CT)となっており、決して懸念を払しょくできていない可能性が残ります。
ホルモンそのものの補充はもちろん直接的に生体が渇望するニーズですが、もしかしたら間接的にまだ残っている性腺機能、ホルモン分泌機能を向上させたり体内のテストステロン残存濃度を持続させる治療法のほうが、より安全性の高い、生理的に近い機能改善が期待できるのではないかと考えさせられる報告でした。