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2/18/2017

先進7か国における社会的地位と非感染性(慢性)疾患死亡率の関連性

世界保健機構: World Health Organizationが2013年に発行した、

Global Action Plan for the Prevention and Control of Noncommunicable diseases 2013-2020

*Noncommunicable diseases (NCDs) – mainly cardiovascular diseases, cancers, chronic respiratory diseases and diabetes
このなかでは、2025年までに非感染性疾患: 心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病による死亡率を25%減少させよう、と掲げている (”25x25イニシアティブ”)。その原因となる7つの因子:アルコールの過剰摂取、運動不足(不十分な身体活動)、喫煙、高血圧、塩分摂取、糖尿病及び肥満を主要リスクとみなして疾患啓発などの活動を加盟各国に指導など展開している。

このWHOのアクションプラン”25x25イニシアティブ”の中では、世界市民の背景の違いは考慮されずに上述したリスク因子がフォーカスされていることに対し、ヨーロッパ委員会や欧州各国の科学予算に基づいて、ヨーロッパの研究者たちが各国のコホート集団のデータを用いて、その背景となる社会経済的地位に基づく死亡率を比べてみた研究が最近のLancet誌Open accessに登場している(リンク:DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(16)32380-7)。
ここからは研究の条件と結果になるが、少し要約して述べる。
1965~2009年の間に社会的地位(産業的地位)が調査されている48の研究コホートが選択され、少なくとも3年間の追跡がされた方を対象とした。175万人超の男女、WHO加盟7か国(英国、フランス、スイス、ポルトガル、イタリア、米国、オーストラリア)を対象とした。社会的地位はヨーロッパの社会経済分類に基ずくクラス分類がされたようだ。エントリー時の年齢は47.8歳、女性が54%であった。平均追跡期間は13.3年。これまでの既知のデータなどから予想された通り、低い社会的地位の人は、高い人に比べて男女とも死亡率が高くなることが推定されている(男性1.42倍、女性1.34倍ハザード比)。主要リスクとされる喫煙や飲酒、身体活動性などそれぞれのリスク因子に対しても同様に死亡率への影響を比較していて、最も死亡率への影響があったのは喫煙で2倍、低いものでも肥満で1.1倍程度、特定の疾患による死亡に限定すると喫煙はさらに高いハザードとなっている。社会的地位の低さによって40-85歳の方の失われる生存年は、全体で2.1年、過剰飲酒で0.5年、肥満で0.7年、糖尿病で3.9年、高血圧で1.6年、身体活動の低下で2.4年、そして喫煙で4.8年と推定された。
このまま読んでも喫煙者の方はショックでしょうがいわずもがなですね。
先進国のデータであることは発展途上国の方々とはちょっと違ってきますが、他の先進各国にとってはほぼほぼ当てはまる内容になっているかと想像してます。
社会的地位が栄養・食事環境や医療保健環境の点でより良いものを手にしていることからくる結果だと思いますが、皆保険による医療提供環境がほぼ均質な日本においても同様でしょうか?それを検証できるデータやコホートを日本はおそらく持っていないと思われます。
いま一度WHOのAction Planの目標を医療関係者、政府の医療健康政策を担う方々の目に留まり、国民にまで浸透できることを祈ります。

2/11/2017

医者は患者を選ばない、患者は医者を選びたい

すでにプロメディアの多くが取り上げたのと研究グループのおひとりである研究者本人の解説があるようなので詳細な紹介は割愛しますが、米国のメディケアのデータを使用して治療を行う医師の背景の違い(性別と出身国)による患者アウトカム(入院から30日以内の死亡率と再入院率)を検証した研究が昨年末から今年2月にかけて2報報告されていた内容に関して考えてみたいと思います。


報告の一つ目は
”女性医師の方が男性医師よりも患者の死亡率や再入院率が低い”という、結果を示したもの、
二つ目は
アメリカ人医師(アメリカ国内の医学部出身の医師)と比べて、担当医が外国人医師(海外の医学部出身で、米国の医師免許を取り直して米国で働いている医師)であった場合、患者の方が死亡率が低いことが明らかになった。リスク補正後の30日死亡率は、外国人医師が11.2%であったのに対して、アメリカ人医師は11.6%であり、統計学的に有意な差であった(補正後のオッズ比0.95、95%信頼区間0.93~0.96、P<0.001)。一方で、再入院率は、外国人医師とアメリカ人医師で差はなかった。リスク補正後の医療費は外国人医師の方が若干高いと言う結果が得られたこの研究結果は英国医師会の学会誌であるBritish Medical Journal(2017年2月3日オンライン版)に掲載された。
両方とも)引用元:津川友介氏のブログより転載

というもの。「死にたくなければ~」と少々過激な表現でタイトルされてニュースにもなったのでご存知の方も多いかもしれません。
結果は上に簡潔に述べられた通りで、一つ目は生物学的な性の違い、二つ目はちょうど泥沼試合の様相となっているトランプ新政権の移民封鎖政策にもかかわってくる内容となっており、これらの結果を米国の医師、患者たちはどのように受け止め、また社会はどのように活用していけるのか考えさせられるものです。
それぞれの論文では、入院患者のみを担当する内科医、ホスピタリストで層別解析した場合にも同様の傾向を示したことから、主病名や併発疾患、背景情報などで背景情報、特に重症度を補正した結果に加え、患者を選べない環境にあるホスピタリストの中でも、これらの性別、出身国の違いが患者さんの予後に影響を与えていることを示したものとなっています。

確かに多くの他の研究者たちが指摘している通り、両研究ともコンマ4%(0.4%)程度の差でサンプルサイズが莫大であることから統計学的有意差と判定されていることは、臨床的な意味があるのか、との批判を受けていますが、研究を行った本人は”死亡率0.4%とは過去10年間の死亡率の改善とほぼ同じレベルです。過去10年間に開発された薬や医療機器、ガイドラインなどを全部合わせてものと同じだけの効果ですので、「臨床的に意味がある差」である”と考えているようです。
しかし、死亡率改善率の数値の意味は、これまでのグローバル社会の中で10年かけて行ってきた成果ほどの差があることは理解できましたが、統計的な有意差はサンプル規模で推定されるものなので差が0.4%あることよりも”有意に”差がついたことをあまり重要視せずに解釈すべきであるのかと思います。

一般論として、これらの結果はとても印象深かったのですが、そもそも、主病の違い、重症度を補正していたとしても入院から30日以内の死亡は担当医の裁量の余地がどれくらい反映できるものでしょうか?くも膜下出血で卒倒入院、その後に死亡、そこに主治医の性別や背景で本当に影響が入り込める余地があるのでしょうか?30日以内で死亡に至るくらいの重症症状であれば医者を選んでいる場合でない気がしてならないです。また、せっかくの研究ですが、活用の糸口があまり見当たりません。このことを知った患者さんが、死ぬか生きるかの瀬戸際に患者さんやそのご家族が男性医師の診療を拒否するとは思えないですし、医療機関がこの研究で示された意味で外国人医師の数や女性医師の数をサービス評価の指標として活用するとも思えません。

ですので、死亡アウトカム期間をそれぞれ適切に設定された各主病名ごとに観察期間にもっと幅を持たせた解析の方がより有用であると感じました。
研究アイデアとしてはとても印象的で、多くの興味を引き付けたことは成功だと思いますが、本来のリサーチクエスチョンとしては治療者の背景の”何が”よりも治療行為のどういう側面が予後に影響するのかまた別のリサーチクエスチョンに立つことの方が興味を覚えました。
いずれにしてもこのような着眼点はとても素晴らしく、日本での同様のエビデンスに期待したいです。

2/04/2017

きっかけとこのブログで目指すもの

始めてみよう、とは思ったものの自分なりにここで目指すものを最初のうちに整理しておこうと思います。

きっかけは、①年齢的にも一つ節目を迎えたのでなにか新しいchallengeをしたかったこと、②仕事や業務に縛られずにライフワークと考えている興味分野(ライフサイエンス、健康科学)での活動をプライベートの生活のなかにも取り入れてみようと思ったこと、③数年前、基礎研究者としてやっていたころに接していたメディアなどの情報に比べ、臨床研究に関する情報や薬剤情報が堅苦しく、行政ニュースに近いものがしていて不満を感じているところです。プロメディアの情報は多いけど、機械翻訳的しすぎていて、研究者側の想像力や発送、理想・妄想に触れる情報発信があまり多くないように感じています。
できればこんな感じにしていければなあ、と思っているのが発生生物の西川伸一氏の論文ウォッチ:http://aasj.jp/watch.html。毎日更新されているというので私にはとても無理そうなので理想として掲げさせてもらいます。中身の記事選択は、あまり基礎の方には寄せない方向で、一方でプロメディア:日経メディカル誌Medical Tribune誌ですでに取り上げられていれば紹介にとどめることにして別の記事やニュースを探し出そうかと思ってます。

仕事では帰納法的な思考、進め方が求められますので、ここでの情報収集を通して発想を磨く、演繹的なスキルブラッシュアップを行う場にできれば良いですかね。
技術的な面も始めていきながら覚えていこうと、不備が生じることがあるかもしれませんが、お手柔らかに。